基礎ガイド

個別のコマンドを覚える前に、トレーニングの「考え方」を知る。
この9つが全コマンドに共通する土台になる。

1 マーカー(「Yes」)の仕組みとタイミング

「正解の瞬間」を音や言葉で正確に切り取る道具。これがすべてのトレーニングの土台。

  • マーカーは「橋」。正解の瞬間に鳴らし、ご褒美が届くまでの時間差をつなぐ。離れた場所の行動も正確に伝えられる。
  • タイミングが命。基準を満たした「正確なその瞬間」に鳴らす(例:お尻が床についた瞬間)。1秒遅れると、犬はその時にやっていた別の行動を学習してしまう。
  • 1マーカー=1ご褒美。鳴らしたら必ず毎回ご褒美を出す。鳴らして出さない、は厳禁(マーカーが弱くなる)。
  • マーカー語は短く・はっきり・一定・感情を込めず(「Yes」推奨、またはクリッカー)。鳴らしてから1〜3秒以内にご褒美を渡す。

2 マーカーの「充電」(最初にやること)

音や言葉=ご褒美、という関連づけを犬の脳に作る作業。

  • 静かな部屋で「Yes」と言う→すぐおやつ。犬は何もしなくてよい。これを10〜20回繰り返す。
  • 間隔をバラバラにして予測できないようにする。
  • テスト:「Yes」と言った瞬間に犬がパッとこちらを見たら充電完了。

3 ご褒美の渡し方とリセット

どこで渡すかで、犬が覚える姿勢が変わる。

  • 強化したい姿勢のままご褒美を渡す。おすわり・ふせは口元の低い位置で渡すと姿勢が崩れない。
  • 1回ごとにリセット。おやつを少し離れた所に投げる/一歩下がる、で次の回をゼロから再現させる。
  • ご褒美はおやつだけでなく、おもちゃ・遊び・褒め言葉・「ドアから外に出られる」等の生活報酬でもよい。

4 練習時間と頻度

短く・頻繁に。長い1回より、短い複数回。

  • 1回3〜5分を1日に数回。犬がまだ乗っている状態で切り上げる。
  • 飽きさせない・疲れさせないのが定着のコツ。

5 難易度を上げるルール(80%ルール)

成功が安定してから次へ。失敗したら一段戻す。

  • 今のレベルで10回中8回(約80%)成功してから難易度を上げる。
  • 失敗したら、ひとつ前の簡単なステップに戻して基準を下げる。叱らない。
  • 基準は一度にひとつだけ上げる。時間・距離・誘惑を同時に上げない。

6 号令(コマンド語)は最後に付ける

できない行動に名前を付けると、号令が「汚れる」。

  • 順序:①ルアー/キャプチャ/シェイピングで行動を安定させる→②おやつを抜いてハンドサインにする→③その直前に号令語を言う→④最終的にハンドサインを省く。
  • まだ確実にできない行動に号令を付けると、号令と「従わない」が結びついて弱くなる。

7 解除語とマーカー語は1つに統一

犬に「いつ動いていいか」を明確に伝える。

  • 解除語(「OK」「フリー」「ブレイク」)は1つに固定。停止系(まて・ハウス)を「いつ終わってよいか」を犬に教える。
  • 解除語がないと犬は勝手に動き出し、「まて」が一生安定しない。これが最も多い失敗。
  • 「OK」は日常会話に出やすいので、誤発動を避けたいなら「ブレイク」「フリー」を推奨。

8 3つの教え方(ルアー/キャプチャ/シェイピング)

状況に応じて使い分ける基本テクニック。

  • ルアー(誘導):おやつで姿勢に導く。速いが、早めにおやつを抜かないと「おやつがある時だけ従う犬」になる。
  • キャプチャ(捕捉):犬が自分からやった瞬間を捕まえて強化。おすわり・アイコンタクト・リラックスなど自然な行動に最適。
  • シェイピング(形成):ゴールに近づく小さな一歩ずつを強化。考えて行動を出す犬を育てる。タッチ・ハウスに有効。

9 般化の3D(時間・距離・誘惑)

家でできても外でできない、を防ぐ仕上げの枠組み。

  • 順序は 時間(Duration)→ 距離(Distance)→ 誘惑(Distraction)。一度に1つのDだけ。
  • 時間:1秒ずつ伸ばす。犬が保っている「最中」にご褒美。崩れたら短く戻す。
  • 距離:正面→横→後ろ→部屋を出る、の順。離れたら手渡しできないのでおやつを投げる。
  • 誘惑:静かな慣れた部屋から始め、徐々に刺激の多い環境へ。
  • 新しいDを足す時は、他のDを一旦ゆるめる(例:距離を足す時は時間を1秒に戻す)。

基礎を理解したら、コマンドへ進みましょう。

学習ロードマップの順番に沿って、 コマンド一覧から1つずつ実践していくのがおすすめです。