食事

犬がごはんを食べない|様子を見ていい場合と、受診する場合

出典あり

砂利の上で前足をそろえて伏せ、静かに前を見ている長毛の犬
Photo: Chiara Coetzee from Menlo Park, CA, USA(CC0, Wikimedia Commons)

ごはんを残した日、多くの人はまずトッピングを足します。ふやかす、温める、缶を混ぜる。そして食べたら安心してしまう。 ここに落とし穴があります。食べさせる工夫は、原因を隠してしまうことがあるからです。

獣医療の資料は、食欲の低下を2つに分けています。**食べたいのに食べられない状態(偽性食欲不振)と、食べたくない状態(食欲不振)**です。前者は口や歯、飲み込み、痛みの問題で、後者は体の不調や環境の変化が背景にあります。見分けるところが出発点です。

この記事は、家で5分でできる確認、様子を見ていい場合と待ってはいけない場合、そして記録の付け方を整理します。診断や治療には踏み込みません。 気づいて、受診につなげるところまでです。

「食べない」は2つに分かれる。左:食べたいのに食べられない(口・歯・飲み込み・痛み)。右:食べたくない(体の不調・環境・ストレス)

この記事で学べること

  • 食べたいのに食べられないと食べたくないの見分け方
  • 家で5分でできる確認(口、体重、便、水、様子)
  • 様子を見ていい場合と、待ってはいけないサイン
  • 子犬・小型犬・シニアで急ぐ理由
  • 「食べさせる工夫」を先にやってはいけない理由
  • 受診のときに持っていく記録

今日やることは1つ。 食べなかった時刻と、出した量・食べた量をメモしてください。スマホのメモで構いません。この記録が、受診したときにいちばん役に立ちます。

記事執筆における出典

食欲の話は、経験談と民間の工夫が多く出回ります。何をもとに書いたかを先に示します。

  • 食欲不振の定義と原因の分類 ── VCA動物病院の解説(anorexia と pseudo-anorexia)
  • 栄養評価の位置づけ・体のチェック方法 ── 世界小動物獣医師会(WSAVA)のグローバル栄養ツールキット。栄養評価は体温・脈・呼吸・痛みに続く「5番目のバイタル評価」とされ、ボディコンディションスコア(9段階)と筋肉量のスコアが公開されています
  • 急性胃炎と食事の戻し方 ── MSDマニュアル獣医版。食べられるようになったら少量を頻回に与え、3〜5日かけて元の食事に戻す
  • 子犬の低血糖 ── ピュリナ プロクラブの解説。3か月未満の子犬に起こる若年性低血糖と、その引き金・サイン
  • 異物のサイン ── 米国獣医外科専門医協会(ACVS)の消化管異物の解説
  • 家での確認手順 ── 上記をもとに、BAUDOGが構成しました

BAUDOGは診断をしません。 ここに書くのは「気づくための見方」だけです。

数字で見る「食べない」

出典の記載
栄養評価の位置づけ体温・脈・呼吸・痛みに続く「5番目のバイタル評価」。すべての診察で行う(WSAVA)
体の評価ボディコンディションスコアは9段階。理想は4〜5で、肋骨が薄い脂肪越しに触れ、上から見て腰にくびれがある(WSAVA)
筋肉の評価脂肪とは別に、筋肉量のスコアがある。病気や加齢で減る(WSAVA)
食事の戻し方食べられるようになったら少量を頻回に。3〜5日かけて元に戻す(MSDマニュアル獣医版)
子犬の低血糖生後3か月未満で起こる。短い絶食、寒さ、ストレス、寄生虫が引き金になりうる(ピュリナ プロクラブ)

体重は、いちばん正直な数字です。 「食べていない気がする」は主観ですが、体重は減ったか減っていないかがはっきりします。

1. まず分ける ── 食べたいのか、食べたくないのか

VCAは、食べ物に興味がない状態(anorexia)と、**食べたいのに取れない・噛めない・飲み込めない状態(pseudo-anorexia)**を分けています。後者の背景には、口や喉の炎症、歯のぐらつき、口の腫瘍、飲み込みに関わる神経の異常、そして体の痛み(背中の痛みなど)が挙げられています。

家で見分ける手がかりは、器の前での行動です。

食べたいのに食べられない食べたくない
器に寄ってきて、においを嗅ぐ器に近づかない、顔を背ける
口をつけるが、こぼす・落とす口をつけない
片側だけで噛む、食べながら鳴く好きなおやつにも反応が薄い
よだれが増える、口をくちゃくちゃする寝ている時間が増える

「おやつなら食べる」は、どちらでも起こります。 柔らかいから食べられているだけのことも、単に好みの問題のこともあります。それだけで「わがまま」と決めないでください。

器の前での行動で見分ける。寄ってきてこぼす・片側で噛むなら口の問題、近づかない・顔を背けるなら体調や環境

2. 家で5分、確認すること

道具は体重計とスマホだけです。順番に見ます。

  1. 体重を計る。 抱いて一緒に乗り、自分の体重を引きます。前回の数字と比べます
  2. 口を見る。 唇をめくって歯ぐきの色、歯の汚れ、よだれ、においを見ます。嫌がるなら無理をしない
  3. 便を見る。 最後の排便はいつか、形はどうか、血が混じっていないか
  4. 水を見る。 飲む量が増えたか、減ったか。まったく飲まないのは急ぎます
  5. 様子を見る。 歩き方、呼吸、いつもの場所にいるか、呼べば来るか

触られることに慣れていない犬は、口を見るだけでも大ごとになります。あご乗せを先に教えておくと、こういうときに確認できます。

そして記録します。 時刻、出した量、食べた量、便、吐いたか、水の量。3日分あれば、受診したときの情報としては十分です。

家で5分の確認。体重を計る、口を見る、便を見る、水の量、歩き方と呼吸。そして記録する

3. 様子を見ていい場合

次のすべてに当てはまるなら、次の食事まで様子を見るという判断はあり得ます。

  • 元気がある。呼べば来る、遊びに反応する
  • 吐いていない、下痢をしていない
  • 水は飲んでいる
  • 思い当たる理由がある(暑い日、フードを替えた、ワクチンの翌日、おやつを多く食べた、来客や引っ越しなど環境の変化)
  • 成犬で、体重が減っていない

思い当たる理由があるかどうかが分かれ目です。 夏に食べる量が落ちるのはよくあることですが、涼しくなっても戻らないなら別の話になります。暑さ全般は熱中症を防ぐにまとめています。

フードを替えた直後なら、切り替えが急だった可能性があります。MSDマニュアル獣医版は、回復期の食事について3〜5日かけて元に戻すとしています。新しいフードに替えるときも、同じくらいかけて混ぜていくのが穏当です。

様子を見ていい場合の5つ。元気がある、吐いていない、水を飲む、思い当たる理由がある、体重が減っていない

4. 待ってはいけない場合

次のどれかがあるなら、様子を見ずに動物病院に連絡してください。

状況理由
生後3か月未満の子犬、または小型犬の子犬が食べない若年性低血糖。短い絶食でも起こりうる(ピュリナ プロクラブ)
ふらつく、震える、ぐったりする、けいれん低血糖のサインとして挙げられている
吐く、えずく、お腹を痛がる、便が出ない消化管の異物で見られる症状(ACVS)
ひもや布、おもちゃを飲み込んだ可能性があるひも状の異物は特に急ぐ(ACVS)
水も飲まない脱水が進みます
歯ぐきが白い、紫っぽい、呼吸が速い全身の問題のことがあります
シニアで、食べない日が続く/体重が落ちてきた筋肉量は病気や加齢で減ります(WSAVA)

子犬は、成犬と同じ物差しで測らないでください。 体が小さいほど、蓄えが少なく、下がるのが早いからです。

待ってはいけないサイン。子犬が食べない、ふらつく・震える、吐く・便が出ない、ひもや布を飲んだ、水も飲まない

5. 「食べさせる工夫」を先にやらない

温める、ふやかす、トッピングを足す、手から与える。どれも食べさせる力はあります。だからこそ、原因を見えにくくします。

  • 痛くて噛めない犬は、柔らかくすれば食べます。歯の問題は残ったままです
  • 吐き気がある犬は、においの強いものなら口をつけます。原因は隠れます
  • 毎回トッピングを足すと、犬は「待てば良いものが出る」を学びます。次からドライだけでは食べなくなります

順番はこうです。まず確認して記録する。急ぐサインがなければ、いつもの食事のまま次の食事を待つ。それでも食べないなら受診する。 工夫は、受診して原因がはっきりしてからで間に合います。

食器の前で落ち着けない犬、そわそわして食べない犬には、ステーションで「ここで待つ」を教えておくと、食事の時間そのものが静かになります。拾い食いが多い犬は、ごはん以外で満腹になっていることもあります(拾い食いをやめさせる)。

順番。確認して記録する、急ぐサインがなければ次の食事を待つ、それでも食べないなら受診する。工夫はそのあと

実践:受診に持っていくもの

電話をかける前に、これだけそろえてください。5分で話が早くなります。

持っていくもの具体的に
食事の記録いつから、どのくらい食べていないか。出した量と食べた量
体重いまの体重と、前回わかっている体重・その時期
便の記録最後の排便、形、色、血の有無。写真があるとよい
吐いた記録回数、内容(食べ物、泡、黄色い液、血)。写真があるとよい
食べている物フードの袋(銘柄と量がわかるもの)、おやつ、サプリ、薬
心当たり拾い食い、誤飲の可能性、留守番、来客、引っ越し、暑さ

受診に持っていくもの。食事の記録、体重、便と吐いた物の写真、フードの袋、心当たりのメモ

写真は強い情報です。 便や吐いた物は言葉で伝えにくく、獣医師はそこから多くを読み取ります。

うまくいかないとき

ドライだけ残して、おやつは食べる ── 好みの問題か、噛む痛みかを分けます。ふやかすと食べるなら、口の中を見てもらってください。

日によって食べたり食べなかったり ── 記録をつけると波が見えます。「週に何日食べていないか」が分かるだけで、相談の質が変わります。

シニアで少しずつ減ってきた ── 体重と筋肉の減りは、病気や加齢で起こります。WSAVAは筋肉量を脂肪とは別に評価するとしています。次の健診まで待たず、体重の記録を持って相談してください。

留守番の日だけ食べない ── 不安が背景にあることがあります。留守番の練習は犬が留守番できない時の練習法に順番を書いています。

多頭で、片方だけ食べない ── 食べる場所を分けてください。近くに他の犬がいると食べられない犬がいます。

相談を考える目安

  • 子犬が食べない ── その日のうちに連絡
  • ふらつく、震える、けいれん、ぐったり ── すぐ
  • 吐く、便が出ない、お腹を痛がる ── その日のうちに
  • 水も飲まない ── その日のうちに
  • 成犬で、食べない日が2日続く
  • 体重が落ちてきた、または食べていても痩せてきた
  • 口を痛がる、よだれが増えた、口のにおいが変わった

迷ったら電話で聞くだけでも構いません。「様子を見ていいですか」は、立派な相談です。

最後に

「食べない」で最初にやることは、工夫ではなく分けることと、記録することです。食べたいのに食べられないのか、食べたくないのか。急ぐサインがあるのか、ないのか。

今日は、食べなかった時刻と量をメモしてください。体重を計ってください。それだけで、次にとる行動がはっきりします。

日ごろの備えとしては、あご乗せで口を見せてもらえるようにしておくこと、ステーションで食事の場所を落ち着かせておくこと。この2つが、いざというときに効きます。

出典